鎌倉の夏の夜

猛暑の夏です。海に向かう観光客を除いて鎌倉でも日中街を歩く人の姿を見かけることが少なくなりました。東京のように冷房の効いた地下街や駅のそばのショッピングモールがあるわけではありません。とにかくまちは暑いのです。

IMG_5459 こんな鎌倉も午後4時を過ぎると人が見えてきます。スーパーやドラックストアの駐車場も夕方から満車、なんて光景も目にします。暑さを避けるために日中は家の中や室内の居場所(図書館、こども会館、生涯学習センターなど)や学校のプール開放などを利用して過ごし、夕方からお買いものなどのお出かけ、という暮らしの知恵ですね。

1S3A0358 その時間帯から観光客が少なくなる鎌倉のビーチにも地域の人たちが戻ってきます。子どもを連れたママや犬の散歩に来た人、サーファーたち。比較的観光客が少ない材木座海岸に「暮らす人々の夕暮れ」といった穏やかな空気が流れます。

IMG_8048 鎌倉は歴史と景観で知られた人口17万人の海と山の間の街です。明治、大正、昭和の初めは別荘地として、鉄道の利便性が上がった現在では、東京からわずか40~50分の首都の近郊として居を構えている人も多い住宅都市。スーパーもあるけど買い物は近所の商店でが多く、遊びや散策は近くの緑豊かな公園やハイキングコース。かかりつけは家の周辺の診療所。住宅はマンションより木造の戸建てが主流で、「夜の繁華街」なんてなくって、車より歩きか自転車が似合う、住人同士がすれ違ったら挨拶するような、何かあったら声を掛けて助け合うような、人と人とが近い「普通の暮らし」がここにはあります。

そんな鎌倉らしい真夏の風物詩が「ぼんぼり祭り」。
sDSCF0482 立秋の前日から8月9日までの数日間、鎌倉の鶴岡八幡宮の参道で夕方から明かりをともしたぼんぼりが飾られるのです。昭和13年、鎌倉在住の文筆家(当時の鎌倉ペンクラブ会長)・久米正雄の声かけで始まり、文化人らが書や画を揮毫したぼんぼりを出しました。毎年、文化人たちが新たに揮毫した約400点のぼんぼりが配置され、夕暮れになると巫女や神職がぼんぼりの一点一点にろうそくを立てていきます。雨が降ればぼんぼりはしまわれ、火が消えれば新しいろうそくに変えられ、八幡宮の人々に丁寧に飾り守られたぼんぼりたちが輝くのです。この期間は、八幡宮自身も夏越祭(夏の邪気を払う神事。茅の輪くぐりを行う)、立秋祭(実りの秋を願う祭り)、実朝祭(実朝の生誕を祝う)が行われます。

IMG_1799 とりたてて屋台が出たり、派手な音曲やイベントがあるわけではありません。普段から鎌倉の夜は飲食店も少なくて人通りもまばら。けれども、避暑地にもなる鎌倉の、都心よりは少し涼しいこの時期の日没、ぼんぼりのほのかな光に照らし出された鶴岡八幡宮と鎌倉の夏の夜は、それはそれは幻想的で美しく、それを楽しみに住人も観光客も相応に訪れます。夜の催しだから押し合いへしあいしてしまえば、足元が暗くてキケン。そんなこともあってか皆、同じようなペースでおだやかに散策しているようです。ゆったりした夏の夜の涼を感じられて、このまちに住めて良かったと素直に思えます。

もう一つ鎌倉の夏らしい催しが市内各地域で開かれる盆踊り。
DSCF0503 お寺や行政が主催しているわけではなく、地域の人たちが空き地や広場でそれぞれに企画運営する盆踊りは、既成の屋台も派手な舞踏もイベントもありませんが、麦茶や子ども向けのお菓子などが住人によって出されたりして、なつかしさ満点。

DSCF0523 なかでも円覚寺の盆踊り大会は、あの格式高き山門のまわりを踊りながら回る、なんともダイナミックでありがた〜いもの。参道から園児の作ったぼんぼりが飾られ、山門に向けて提灯が並び人々を迎えます。炭坑節や相馬盆唄、東京音頭など盆踊りのスタンダードな楽曲が流れ、踊りを先導するのは盆踊りの会の人々。おそろいの浴衣で息もぴったりの踊りは、無理をしていないのだけど、とても粋でかっこいい。これに高齢者から子どもまで浴衣を着た人たちが続き、さらに様々な人が参加して山門を2重3重に囲んでゆったりと踊りの輪が広がっています。くじ引き(地域の人に交じって普段ストイックに過ごしてる円覚寺のお坊さんたちが手伝ってたりします)や和太鼓の演奏もあって、手作り感やフレンドリー感とともに、鎌倉の「粋」がひとしおです。

北鎌 巨大な商観光の施設があるわけでも、交通網が整っているわけでもなく、古くからの寺社と海と緑の自然環境がある鎌倉。年間2000万人もの観光客が来る(人口の100倍以上!それは「まち」の収容能力を超えている気がする)けど、イベント業者の運営する安全で至れり尽くせりの催しや商業主義の客寄せはこの街にはありません。夏の夜のひと時、地域の人や寺社の人々が日頃の感謝やねぎらいを込めて手弁当で「涼」を企画しているのです。住んでいる人も、観光の人も、こんな時に「まちと人を思う」地域の人々の心意気とその「ふるさと」のやさしさを感じて、大切に楽しんでほしいな、と心から思います。

投稿者:CanCan

コメント